言語ゲーム

とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

Twitter: @propella

Disrupting Class isbn:0071592067

イノベーションのジレンマ』で有名なクリステンセンが未来の教育について語った 2008 年の『Disrupting Class』。半分くらい読んだのでメモ。

アメリカの初等教育が上手く行かない理由。

アメリカの大学が留学生に絶大な人気を誇っている一方で、基礎教育には問題があるらしいです。クリステンセンによるとその理由は、決して学校や教師がサボっている訳では無く、時代とともに変化する学校への要求に組織が付いて行けないからです。具体的にアメリカの歴史上何が教育に求められて来たかを時代順に挙げます。

市場社会では、新しい嗜好を持つ消費者が現れるとそこ合わせた新しい企業が生まれ、新陳代謝が行われます。しかし教育は独占なので、原理的に時代の変化について行けません。特に伝統的な教育法には大きな欠点があります。

伝統的な教育法の欠点

昔は知的さを測る指標として、IQ のような共通の尺度が使えると思われていました。しかしその後の研究で指標は沢山ある事が分かりました。指標は研究者によって色々ですが、例えば Gardner の説では、

なんか例の挙げ方がありきたりだけど。。。こんな感じです。で、普通の人はこのうち二つしか三つしか得意分野が無い。ところが先生が物を教える時には一方的に無意識に自分と同じ得意分野を持つ人だけに一番分かりやすい教え方をしてしまう。すると得意分野の重ならない生徒には伝わらない。これが伝統的な教室で落ちこぼれが生まれる理由です。

教育の改良法

この状況を改善するために、コンピュータを使ったマンツーマン教育を行います。各生徒の個性に合わせた教育を生徒中心教育と呼びます。Apex Learning http://www.apexlearning.com/ や K12 INC http://www.k12.com/ 等がこのような教材を提供しています。しかし、教員組合の強いアメリカではこんな事をまともにやっても絶対失敗します。アメリカのコンピュータ教育の歴史は 80 年代からずっと敗北の歴史です。そこでここから先が面白い所。

クリステンセンによると、破壊的イノベーションは必ず既存の組織が相手にしないニッチ市場で、低品質の製品をきっかけに始まります。どこの先進国もそうですが、アメリカの学生は科学や数学など主要科目の人気が下がり、アラビア語や多様な文化的科目に興味が移って来ています。しかし教員の高齢化や財政難でそのようなクラスを作る事は出来ません。このようなマイナーな分野から実際に少しずつ生徒中心教育を広めようというのがクリステンセンの説です。これはすでに実際に起こっていて、2019 年には半数の高校で何らかのオンライン教育が行われるだろうと予測しています。

仕事人、価値工場、世話組織

Fjeldstat によると、ビジネスモデルには三つの発展段階があります。(上手い訳語が見つかりませんでした。。。)

  • Solution shops (仕事人) : お医者さんや職人さんのように技術を直接提供します。
  • Value-adding process (価値工場) : 工場やレストランチェーン店のように儲かる仕組みを使います。
  • Facilitiated networks (世話組織) : 保険会社や通信のように顧客同士のネットワークを使います。

私思ったんですけど、最古のビジネスである宗教の例を考えると分かりやすいと思います。最初教祖個人の奇蹟で始まり(仕事人)、教団を作り後継を育てる事で教祖が死んでもサービスを続ける(価値工場)、そのうち信者が自主的にイベントを開くようになり教団の役割はその調停になる(世話組織)。

クリステンセンの考えでは、現在の基礎教育は価値工場の段階にあります。教師の質にバラツキがあっても一定の確率でそれなりの教育が受けられる優れた仕組みです。しかし、多様な社会のニーズに答えるために、価値工場から世話組織の段階に向かう必要があります。そこでは教育機関の役割は教師から生徒へ知識を流し込むのでは無く、コンピュータを使って生徒同士が教え合う場を提供するものになります。これは既存の教育組織では対応出来ない破壊的イノベーションです。破壊的イノベーションの性質から、コンピュータ教育は教師では対応出来ないニッチな科目で始まり、次第に既存の教育を侵蝕して行くはずです。

と、この辺で本の半分くらいです。