言語ゲーム

とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

Twitter: @propella

テマヒマ展と第三の産業革命

http://www.2121designsight.jp/program/temahima/

東京ミッドタウン・ガーデンで開催中の『テマヒマ展』に行って来ました。東北地方の色々な手作りの工芸品や加工食品を当代きってのデザイナー、佐藤卓氏と深澤直人氏の新鮮な視線から取り上げた素晴らしい展覧会でした。特に、寒くて厳しい冬の東北地方の自然と、そこに住む熟練した人々の暖かな手を対比させたビデオにはじっくり見入ってしまうシーンが沢山ありました。例えばりんごの箱職人がリズミカルに釘を打ち付けてゆくシーンや、マタタビのツルを割って専用の刃物でしごき、あれよあれよというまにザルに組み上げていく手技の様子はまるで小気味良いダンスのようでした。メイン会場には実際にそれらの製品が展示してあって、じっくりの本物の質感を味わう事が出来ます。

さて、その展示方法も興味深い物でした。製品は近代的なアートギャラリーの中でガラス箱に厳重に展示され、手を触れられないようになっています。魚や野菜の塩漬け、笹巻きやきりたんぽ等の食品は真空パックに詰められていました。ここがよくある物産展とは全く違う点です。食べられる物、使われるものであった物が元の意味から切り離され、滅菌され、視覚鑑賞するだけの物として展示されています。奥の部屋にはビデオに登場した職人さん、工員さんたちの節くれだった手が引き伸ばされて壁にかけられています。この完全に現地の空気と切り離された空間の中で、東京人はテマヒマかけた駄菓子や食器の素晴らしさを讃え、自らの青白い手と見比べ、帰りに駅前にどこにでもあるスタバで大量生産の紙コップのコーヒーをすすりつつ現代人の不甲斐なさを嘆くのでしょうか。。。

と、あまりの展示の小奇麗さ加減に皮肉っぽくなった理由は、東北の手芸工芸の素晴らしさを近代の合理主義批判に結びつけているからです。のんびりテマヒマかけて作っているように見えるその工程も、よく見るとまさに近代の合理主義と産業革命によって生まれた物です。マタタビ細工に使う工具もきりたんぽを茹でる釜も、イノベーションによってより古い伝統を破壊する事によって生まれたものです。そこに目を向けないで雰囲気だけで近代批判をしても仕方がないでしょ?と思ってしまった。

残念ながら、私たちの日常生活は画一化された大量生産の商品に依存していて、東北の工芸品が持つような風合いから遠ざかっているのは確かです。しかし私は近代合理主義が手工芸に新しい可能性を導いてくれる事を期待しています。先週の Economist は「第三の産業革命」というテーマでした。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35048 これは、イギリスの繊維工場を第一の産業革命アメリカのフォードによる流れ作業を第二の産業革命と捉え、今広まりつつあるファブレス3Dプリンタによる少数少量生産の時代を第三の産業革命と呼んでいます。つまり、物の製造コストが下がりアイデアをすぐに具現化出来るようになると、少人数の小さなスタジオによる物づくりが再び一般的になると言うのです。もしかして一回り回ってまた物づくりに地域性が現れる時代が来るのかも知れません。近い将来、今度は大工場のベルトコンベヤで自動車のロボを操作しているような老人達の手が、古き良き時代の工員の手としてこのような展覧会に紹介されるのかも知れません。