クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』を半分くらい読んだ。以下あらすじ。
顧客優先の経営を行う優れた大企業がいとも簡単に新しい技術を持った新興企業に敗れ去ってしまう理由と解決方法について。例として挙げられているのが、ディスクドライブ、バックホー(油圧ショベルカー)、蒸汽船、ミニミル(小型製鉄所)等。これらの歴史を調べると、一度市場を支配した企業が全く同じ理由で新興企業に破れている。
この下克上の背景にはパターンがある。それは、今までと全く違った顧客のために、安くて劣った製品が提供され、次第に技術革新が進む中で既存の市場にも食い込んで行く(破壊的イノベーション)。大企業は既存の顧客を第一に考えるため、新しく質の悪い製品の開発に集中出来ない。気がついたときは手遅れになる。既存企業が破れるのは経営方針が悪いからではなく、よく管理され今の顧客の事を考える事が足かせになるから。経営が悪くない証拠は、破壊的イノベーションの進行中に多くの既存企業は最大の営業成績を納める事と、破壊的イノベーションに使われる技術は多くの場合既存企業で研究が開始されている事。また、同じ顧客を対象にしたイノベーションで既存企業が負ける例は無い。
大企業がこのジレンマを克服する方法は、企業の中に地理的、意思決定的に孤立した子会社を作り成功の暁に再合併する事。
感想。イノベーションという言葉は IT 関係で耳にタコが出来るほど良く聞くので、他の機械業界の例は凄く面白かった。特に数行しか触れられていない蒸汽船の例にはロマンが掻き立てられる。
19 世紀に商用の蒸汽船が登場した時、そのエンジンはまったく信頼の置けないものだった。そこで新興企業は風の吹かない内陸の運河や湖など、限られた顧客に向けて売り込んだ。まだエンジンは大陸間の航海に使えなかったので、大型顧客を抱える既存の造船会社はマストと蒸汽のハイブリッド船を開発した。新興企業が限られた顧客のために蒸汽のみに開発を集中する一方、既存企業は最後までマストにこだわり、最終的に市場から撤退した。
廃れ行く蒸汽帆船!なんて魅力的なフレーズだろう!!技術的な詳細も面白いが、最後までマストにこだわり続け最後に散って行った技術者たちの生き様にも興味がある。まあどうでも良い話だが。
最近、ノンフィクションばかり読んでいるけど、最近読んだ The Greatest Show on Earth (進化論)、Brief principles of macroeconomics (マクロ経済)、Guns, Germs, and Steel (歴史)、そしてこの Innovator's Dilemma (経営) など最近の本に共通するテーマを感じる。それは、
- 意思決定は特定の個人では無く、不特定多数の集合的無意識が行う。
- 未来に方向性は無く、将来は予測出来ない。
- が、環境が不適応者を容赦無く切り捨てるので、後から見ると方向があるように見える。
という、わりと運命論的で無慈悲は論調が見える。これは私が無意識にそういう本ばかり選んでしまったのか、最近の風潮なのかよく分からない。ただこのクリステンセンとドラッカーは同じミニミルという例を出していて、ドラッカーが経営のあり方を問題にしているのに対してクリステンセンは経営者がどんなに頑張っても既存企業がミニミルの危機を回避出来なかったとコンサルにあるまじき諦めムードなので、時代性ってあるのかなと思ったのでした。
前の感想
http://d.hatena.ne.jp/propella/20100913/p1 モバゲーで遊びたい(ドラッカーのイノベーション論)