言語ゲーム

とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

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異化 - アートとプログラミングの交差点

作品の発表を辞めて 10 年にもなるが、最近は面倒くさいので、期待に応えて「プログラミングが僕のアートです!」と言う事にしている。でも来週のキャンプで何か変わった事を喋らないといけないので、この話についてちょっと考えてみます。

アートの一番重要な機能に異化という事があります。異化というのはロシアのシクロフスキーという人が考えた言葉で、見慣れている物をちょっと変わった視点から眺める事で、見えなかった物が見えるようになったり、当たり前だと思っていた事の意外な側面を知る事です。例えばデッサンを習い立ての時の大きな発見の一つが、物には輪郭が無いという事です。幼い子供は丸で顔を表現しますが、目に映る光には線など無く、明暗の差から脳が勝手に輪郭を抽出しているだけなのです。

プログラミングにも異化がつきものです。コンピュータが従うのは論理だけで、人間の常識なんかおかまい無しです。人間は直感に基づいてプログラムを書き始めますが、多くの場合直感は論理とそぐわないためにエラーになります。人間は永い歴史を通して常識や直感を育ててきたために、直感と論理の食い違いを頭だけで判断する事は非常に難しいですが。プログラミングを通して、簡単に自分の考えを別の視点から眺める事が出来ます。

コンピュータの登場は哲学にとって、絵画史の中の写真の登場と捉える事も出来ます。19 世紀の写真の登場によってはじめて画家は人間以外の視線で物を見る事が出来るようになり、それが印象派の生まれる契機になりました。同じようにコンピュータによってはじめて私たちは自分以外の脳に直接アクセス出来るようになったのです。まだその歴史は始まったばかりなので、そこから何が生まれるのか誰も知りませんが、異化というキーワードを通じてアートとの共通点を探る事が出来るかも知れません。