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とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

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古事記

天皇の誕生』isbn:9784087753707 という本を読みました。本屋で何気なく手にとって、ええ!これは変だ!と思ってそのまま買ってしまいました。どう変かというと、『古事記』という日本古来の書物を一部映画のシナリオ風にしてみましたという発想です。『古事記』は折角面白いのに面白さが分かりにくいのは勿体無い。映画のシナリオみたいに書けばきっと面白いはずだ!というのが著者の考えらしい。たしかに、色んな意味で面白いです。

シナリオにすれば良くなる!という発想が突飛すぎて、これ適当に好きな事を書いているだけじゃないのか??と疑って一応岩波文庫の『古事記isbn:4003000110 で冒頭の天の岩戸の話まで確認してみました。割と忠実に書いてるみたい。さらに著者の言うとおり、何となくシナリオ形式で読んだあと原文を読むとすっと情景が浮かんで分かりやすいです。すっかり古事記が好きになりました。

この本のテーマは表題どおり天皇についてなのですが、あまりそこには興味が無いので残りは古事記についてだけ書きます。古事記は面白いです。一つは読み物として。あとは教養として。

読み物としての面白さは、現在の我々が内に秘めている生の感情、怒りや欲望なんかがモロ出しされている部分にあります。まえにギリシャ美術の下ネタ加減に驚いた話を書きましたが、彼らの時代のモラルは今とかけ離れていて、基準が全く違うのです。そこから、自分達の無意識がどこに縛られているかを振り返る事が出来るでしょう。古事記の世界観というのは、糞を撒き散らし、性器を露に踊り狂い、ちょっと前の話が無かった事になるような、まさに漫☆画太郎先生の世界なわけです。是非「ばばあ」のタッチで伊邪那美を書いて欲しいです。

教養としての面白さは、縦糸には男と女の、横糸には民族間の、様々な対立にあります。古事記の男達はみんな若い女が大好きで年寄りとブスが大嫌いなのですが、女達はそれに応じて様々な方法でそれに挑戦するというドラマが国家レベルで展開します(その描写が生生しすぎる事から、古事記の作者稗田阿礼は女性であったと推定されています)。

また大和朝廷が成立するまでに起こる様々な対立。その描写も非常に魅力的です。どう魅力的かと言うと、簡単に言うと敵が良い。ガンダムでもタイムボカンシリーズでも、大体話を前に進めるのは敵の方で、正義の味方側はその性質上受身にならざるを得ない。そういう話づくりのセオリーが、すでにこの時点であるのです。古事記の大きな目的はつまるところ今まで散々征服してきた理由を言い訳がましく正当化する事であり、もしかして他部族を納得させる必要もあったのか、例えば出雲の描写は天照側よりよっぽど魅力的です。

是非日本の公教育で、しかも国語じゃなくて歴史でもっと古事記を取り上げるべきです。中学生だったらこれくらい理解できると思います。