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とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

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「からくり計算器」Maker Faire Tokyo 2022 出展のお知らせ

「からくり計算器」Maker Faire Tokyo 2022 出品予定作品

来週末 9月3,4日に東京ビッグサイトとオンラインで開催される Maker Faire Tokyo 2022 https://makezine.jp/event/mft2022/ に出展します。 今回の未発表作は以下の作品です。

  • Dr. Nim 2022: 二年前に発表した Dr. Nim 2020 の改良版。
  • Binary Wheel Counter 2022: 3D プリンタで制作した二進カウンタ。
  • ブールそろばん 2022: 2010 年に木で制作したブールそろばんの 3D プリンタ版。シャツのポケットに収まるサイズです。
  • 木製半加算器 2021: 木製半加算器の最新版。動作の安定性といい展示のしやすさといい我ながら最高傑作だと思っています。
  • 二進エンコーダ 2021: 十進法の数を二進法に変換する器械。

他にも旧作をスーツケースに入るだけ持ってまいります。前回から二年も経つのでそれなりに新作の数はありますが、過去の作品の改訂が主なので前との変化があまり無いかも。

思い起こせばいつの間にか 20 年以上計算機をテーマにした作品を作っています。そういえばこないだ図書館でぶらぶらしていて、幼少期に読んだ『学研の図鑑 数・形』という本を見つけました。当時小学二年生の私はお小遣いが無かったのでこの本を立ち読みで読破しました。本屋に並んだ他の学研の図鑑が動物や昆虫といった具体的な物を主題にする一方で、この『数・形』は数という概念を図鑑にしており、他と一線を画し異色を放ち、私に衝撃を与えました。数という目に見えない物を形にしたいという欲望はすでにこの頃私の中に芽生えていました。

数・形 (学研の図鑑)

実際に計算をテーマにした彫刻を作り始めたのは学生時代に読んだ『コンピューターレクリエーションIV 遊びの展開』がきっかけでした。この本に、コンピュータをヒモと滑車で実現した遺跡が発掘された!という A.K. Dwedney のエッセイが収録されており、これはかっこ良すぎると感銘を受けたのです。計算という人間の頭の中にある高度に抽象的な概念をヒモと滑車で作る事ができるという事は、人間の魂や感情のような物も突き詰めればヒモと滑車で作れてしまうのでは無いか!

An Aprahulian multiplexer by A. K. Dewdney

https://www.jstor.org/stable/24989059

彫刻とは、伝統的には神や仏の姿かたちを通して人間の本質を顕にする技かも知れない。しかし、もしも計算を形にする事で人間の知性の根源を表現する事ができたら、神や仏の姿を借りるまでもなく、人間の本質を直接表現できるのでないでしょうか。計算とは、私達が私達の知性の仕組みを解き明かした物であり、計算を彫刻として表現する事は神や仏を彫刻として表現する事と同じではないでしょうか。

キーワードを与えると精巧なイラストレーションを描く Midjourney が明らかにしたのは、荒々しい自然や乱雑な都市の姿を AI がいとも簡単に描きあげる一方で、線路や自動車の車輪のような背後に論理を必要とする形態には手をこまねいてしまうという事です。直感に反して、AI は連続なアナログな変化に強く、論理的なデジタルな変化には弱いのです。AI による絵画によって、機械が真似できない本当の人間らしさがむしろ偶然性や連続的なニュアンスにあるのではなく、断続的な論理に根ざしていた事が今暴かれようとしています。

伝統的に、神話や聖書は過去の知性を伝えるメディアであり、彫刻家はそこから題材を取る事で時代を超えて過去と未来の対話を行ってきました。もちろん論理や計算にも十分時代を超えたメディアとしての資格があります。ギリシャで発掘されたアンティキティラ島の機械は二千年後の現代でも通用する同じ天体法則に基づいて天体の運行を計測し、現代の我々を魅了します。神話ではなく計算で人間を表現できるようになった現代、計算を題材とした彫刻を作る事は現代の彫刻家に与えられた使命なのです。

来る Maker Faire Tokyo 2022 は、手作りの作品たちを肴にこのような戯言を皆様と共有できる貴重な機会です。周りの出品者もどれも非常に素晴らしい方々です。多くの発見が待ち受けていますのでぜひ遊びにいらしてください。