言語ゲーム

とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

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Guns, Germs, and Steel by Jared M. Diamond isbn:9780393317558

『銃・病原菌・鉄』isbn:4794210051 をようやく読み終えたのでメモ。

最初要約めいた事を書いて、長くなったので後ろに移す。感想から始める。

私の興味としては、あまり長く語られなかった部分が面白かった。例えば、アフリカやオーストラリアの一部では一旦農業を獲得したにも関わらず狩猟生活に戻った。これは、初期の農業が狩猟採取に比べて常に生産性が高い訳では無い事を示している。ここから言えるのが、本当は狩猟の方がラクで楽しく生活出来るんだけどだんだん食べるもの無くなって来て仕方なしに農業を始めてみたら思わず狩猟より沢山出来てしまった、という流れだったらしい事。

これは何となく教訓めいて面白い話だ。昔の人も思ったに違いない。

そう言えばわしらの部族も最近多少獲物が減ったみたいだけど、気にしないで狩猟生活を続けよう。今の生活には十分満足だし伝統を守らねばならぬ。

隣の部族の奴らは無様にも狩りが下手なので、最近農業とか言うのをやり始めた。苦しく惨めで草なんぞ食って生きているらしい。可哀想な奴らめ。。。

とそのうち惨めな隣の部族の農業は進歩をとげ、余った作物で技術者や兵士を養い狩猟民族を滅ぼして行った、という話。

さらに輪をかけて逆説的なのが、あまり豊かすぎる風土だと農業に適さないという点。農業に適しているのは育てやすく食べやすい一年草なので、肥沃すぎて巨大に育ってしまうと農業のしようが無い。文明の発生はこのように狩りが下手で貧しい土地に住む可哀想な人々の逆境克服ストーリーで始まったのだ。

以下要約。

ニューギジア人 Yali の疑問: なぜ白人は沢山の「カーゴ」を作りニューギニアに持って来たのに、私達黒人は自分たちの「カーゴ」を作り出す事が出来ないのか?

ここで、「カーゴ」とは、鉄斧やマッチ、薬、服、ジュースや傘など、白人社会が持ち込んだ様々な現代の製品を指す。

著者の回答。

  1. 農業に適した野生の作物や動物は、世界の特定の地域にしか無かった。特にアフリカ、オーストラリア、アメリカ大陸では利用出来る野生資源に乏しく、農業の開始が遅れた。
  2. 大陸の地形が技術の伝播に影響を与えた。南北に長い地形では気候の違いから農作物や家畜が伝播しにくい、同じく高山や海によっても伝播が遮られる。ユーラシアは東西に長く、技術交流に有利だった。
  3. 海に挟まれているため大陸間の技術の伝播は難しかった。そこでヨーロッパ、アジアの技術が他の大陸に伝播しなかった。
  4. 地域間の人口密度の差はそのまま技術の差になった。人口密度の高い地域は競争力に富む技術を生み出した。

農業の進歩による余剰生産が階級社会、職業軍人、技術者の維持を可能にして、さらに競争力に富む技術を生み出し、世界を征服して行ったというのが大まかなストーリー。

しかしこれだけでは説明が付かないのが、なぜ 16 世紀以前それまで目立たなかったヨーロッパが軍事的、技術的に躍進したのか、それまで世界の中心だった中東地域と中国とを比較する。

  • 中東については、乱獲による気候の変化によって自滅した。農業が発生した時代に存在していた肥沃な大地は森林の大規模な伐採と維持不可能な農業によってやせ衰え、文明の中心は西に移動した。
  • 中国においては、統一王朝による多様性の無さが硬直した政治と保守的な風土を産み、14 世紀から 16 世紀にかけて造船技術や機械技術を失い、二十世紀に入っても競争力を持てなかった。

特に中国とヨーロッパの対比で著者が提唱するのが、『適度にバラバラ仮説』で、ヨーロッパのように山や海で適当に断絶されて統一国家を生み出さない方が競争には適しているという説。例えばコロンブスが大西洋航路の援助をヨーロッパ諸国に求めた時、イタリア、フランス、ポルトガルメディナに断られて最後スペイン女王にやっと認めてもらった。一旦コロンブスが成功すると、各ヨーロッパ諸国はこぞってアメリカ侵略を始めた。中国のような統一国家だとこのようなチャンスに恵まれる事は無い。中国が常に統一国家になった理由は、遮るものの無い地形が大きな要員という話。

この本が書かれてから、著者にビルゲイツを初めとするビジネスリーダーから提案があり、歴史から生まれたこの知見を組織設計に生かせないか研究が進んでいるらしい。