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とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

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多数決の苦い思い出

高槻市立第二中学校の男子制服は学生服と学帽だったが、通っていた私たちにはそれが大変苦痛だった。特に部活の終わった後、汗だくの体に黒い制服と帽子を纏って下校するのはとても不快で、多くの生徒は帽子を取るなりホックを外すなりして各自工夫していた。しかし教師はそれを校則違反と呼び、定期的に取り締まった。

確かに学生手帳に記載された校則には、男子生徒の守るべき服装の規範について書かれてあった。そこで私はホームルームの時間に、なぜ誰の利益にもならない学生帽着用などという規則がここにあり、悪意の無い人間が罪人のように扱われるのかと教師に問うた。

教師は私に、規則が誰の利益にもならないというのは君の価値観かもしれないが、規則は規則として守らねばならない。それが気に食わねば規則に則って生徒大会で主張すれば良い。多数決で通れば校則を変える事が出来る。それが民主主義だと答えた。

私は彼にやみくもに否定されると思っていたので、誠実な教師の答えが意外だった。そして大きな希望を持った。クラスメイトの多くは学生帽を苦々しく思い、取り締まる教師に悪態をついていた。女子がどう思うのかは知らないけど、多数決なんか取れば帽子廃止に多くの男子が賛成するのは目に見えている。

生徒大会というのは、年に何度か全クラスの学生が体育館に集まり、体育祭や遠足などについて生徒会主体で議論する場だ。それまで私の在籍中に校則自体が議題に登る事は無かった。ある生徒大会の閉会近く、私は挙手して学生帽廃止の自説を唱えた。そして何度か議論のやり取りがあった後、多数決になった。

私はクラスメイトのそれまでの反応から、絶対多数を信じていた。

山宮君の意見に賛成の人は起立してくださいと生徒会の役員は言った。そこで起立したのは、私以外たった二人だった。

後で何人かの友人に、なぜあそこで起立しなかったのか聞いてみたが、はっきりした答えは返ってこなかった。何となく、教師はこの結果になる事を始めから知っていて生徒大会で議論する事を勧めたのだろうと思った。私はそれからも何度も中学生活で空気を読まない事をしたが、二度と校則について教師と議論しなかったし、生徒会とも関わらなかった。

学校について考えていて、ふと嫌な記憶が蘇ったので書いた。私以外で起立した二人の生徒は私の友人では無かった。あの中で起立するのは相当な勇気が必要だったろう。私のナイーブさにつき合ってくれた二人には今でも本当に感謝している。