言語ゲーム

とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

Twitter: @propella

論理かるた

今日は証明するカードについて書きます。証明というとなんだか人間にも難しく、機械にやらすには高度な人工知能が必要だと思うでしょう。しかしコンピュータも電気も不要です。なんとこのカードは並べるだけで証明ができてしまうのです!とりあえずどんなのか見てみましょう。

自分でやりたい人は logiccard.pdflogiccard2.pdf をダウンロードして名刺用紙に印刷してください。用紙のサイズが合わない時は logiccard.svglogiccard2.svgイラストレータInkscape で編集するといいと思います。

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このように印刷して、灰色の部分をポンチで穴を開けます。ホッチキス式のポンチではカード中ほどの穴に届かないので、その場合は手芸用のポンチを使うと良いです。

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するとこのような謎めいたカードが出来上がります。

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それぞれのカードはベン図になっています。穴の開いていない部分が真で、開いている部分が偽です。写真のカードは A の枠以外全部に穴が開いているので A が真であるという意味になります。枠の外にも一つ穴がありますが、それは A B C のどれにも入らない物の集合(¬A ∧ ¬B ∧ ¬C) という意味です。

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このカードを使って「A ならば C」を表すとこのようになります(理由は省略)。

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では早速、「A ならば B」で 「B ならば C」の時 「A ならば C」かどうか?を証明します。カードには ¬ が付いてる奴とついて無い奴があります。¬ が付いてる奴は「条件」を表し、付いてない奴は「質問」を表します。この証明をするためには、「¬(A → B)」「¬(B → C)」「A → C」の三枚のカードを重ねて並べるだけです。

もしも証明が成功すれば、どう考えても真、すなわち穴無しの状態になります。

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さあ、上手く行くでしょうか?ドキドキ!

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おめでとうございます。オール白です!証明終了

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さて、これだけではつまらないので、証明が失敗する例も紹介します。「A ならば B」の時「B ならば A」だろうか?という良くある例です。もしこれが正しければ「結婚したら太る」から「太ったら結婚出来る」が導けてしまいます。ドキドキ。

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じゃーん。残念ながら穴が空いてしまいました。証明失敗です!。

最後にちょっとだけ理屈編。このカードは重ねる事によって真の部分が増えてゆくので、カードを重ねる事は論理和(∨)の演算をしている事になります。また、このように様々な条件の否定形を論理和でつなげ、さらにひとつだけ質問を肯定形で繋げた論理式を「ホーン節」と呼びます。やってることは極めて簡単なのですが、人工知能の最も重要なアイデアの一つです。

また、20世紀にホーン節が発明される以前から、このような穴を開けたカードを使った論理計算は、ベン自身や論理機械の発明家として有名なマークワンド(Marquand) によって19世紀末から試されて来ました。私の実験は名刺用紙とプリンタを使ってこの歴史的アイデアを再現してみた物です。最初はそれぞれのカードに「犬が歩けば棒にあたる」などの命題を書いて本当のカルタにしようと思ったのですが、余計ややこしくなると思ってやめました。