言語ゲーム

とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

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インベーダー

さて、徹夜明けにも関わらず眠い目をこすりながらこうして亀岡市の山奥までやって来たわけだが、倉庫の周りは深い林の中で、まさかこんな物が置いてあるなんて誰も想像がつかないだろう。けれども少し手で埃を掃うだけで、本当に新品のインベーダーゲームの筐体である事はすぐわかった。しかも27台もある。

父の山っ気の事は、物心ついた時から母の愚痴と共に聞かされていた。僕がまだ幼い頃には随分色々な事業に手を出し、ことごとく失敗していたと言う。ちょうど当時はインベーダーゲームが大流行していて、父もそれに乗ってしまったらしい。しかし大量の筐体を揃えていざゲームセンターを開こうと言うその時に何らかの事情で果たせなかったようだ。まあ、インベーダーゲームのブームなんて一過性の物だったから、果たして実現しても成功できたとは思わないが、後には筐体だけが残り、母もこれにはうんざりしたらしい。

しかしこの話を聞いた僕も子供だったから、その後の話には興味を持てなかった。だから当時共同経営者だったと言う富山氏が、亡くなった父の代わりに僕に突然電話をかけて来た時にはさっぱり話しの流れが読めなかった。

とにかく、目前には当時の筐体が新品のまま置かれている。たまたま土地を持っていて、未練もありこうして今まで置いてきたのだが、さすがにそろそろ処分を考えたいのだと言う。何気なく僕は、これ動くんですかと聞いた。

富山氏は悪戯っぽく笑顔で返し、前に電気入れたん何時の事やろかと呟いた。そうして配電盤の方を指差し、あれ、あの一番左と教えてくれた。こんな山奥でも電気は通っているのか。僕は言われたとおりスイッチを押し上げた。

そして、27台のインベーダーは一斉に光を放った。