言語ゲーム

とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

Twitter: @propella

文脈つきペースト

文脈つきペーストについて書きます。文脈つきペーストとは、ある文章をコピーアンドペーストする際に、文章だけでなくその文章のコピー元情報をペーストするという想像上の機能です。コピー元情報とは、ファイル名や URLと、あと出来たらいつの版かの情報を含みます。

まずこの機能の利点として、ローカルの検索機能をかしこく出来る可能性があります。ウェブにおいては google という便利な道具がありますが、意外と自分のパソコン内のファイルの検索機能は訳に立たない物です。これは、リンクによってお互いに情報を参照するウェブと異なり、ローカルの文書にはお互いの関連を示す情報が無いからです。文脈つきペーストによって文書間の関係が明らかになれば、より頻繁に参照される重要な文書を検索順序の上位に持ってくる事が出来ます。

マルチメディア情報にとっても文脈つきペーストは大きな意味を持ちます。例えばデジカメで写真を撮ってウェブの為に加工したとします。あとからふと、やっぱり元の写真から作り直したいと思ってもなかなか元写真を探すのは大変です。また、イラスト作成において、元画像の作成ツールのファイル形式から gif 等に変換した後で、常に元画像を参照出来るようにしておかなくてはなりません。また、いくつかの画像や文章を組み合わせて一つの論文を作成する際に、それぞれの参照元機械的に辿れると非常に便利です。

文脈つきペーストだけで履歴管理システムを構成する事を考えます。あるファイル text1.txt を編集するとしましょう。保存した後に出来た同じファイル名の text1.txt は、最初のバージョンを文脈つきペーストした物とみなす事が出来ます。名前が同じ別の版という事を表現するために文脈つきペーストが使えるのです。これはどういう風に便利かと言うと、二つのファイル text1.txt と text2.txt をあわせて一つのファイル text1.txt を作る際、svn 等ファイル名ベースの履歴管理では text2.txt から text1.txt の流れを追うことが出来ません。文脈つきペーストによって、ファイル名ではなく、内容に即した履歴管理が可能になります。

文脈つきペーストはウェブにも新しい可能性を開きます。言及元への参照をいちいち手動で書かなくてもいい上に、参照を双方向にすれば現在トラックバック等によって手動でなされている逆リンクを全自動化する事が出来ます(HTML としての表現は別に考える必要があります)。あるコメントがどこからどのように伝播していったのかという事を全て追う事が出来ます。

この機能を数百年数千年と使い続ける事で、さらに我々の文化は豊かな物となるでしょう。我々の話す単語のそれぞれに、当然何千年か前に使い始めた誰かが居るのです。古典の研究によって、有る程度初めて書物に示された状況は分かりますが、それも限られた範囲内のものです。文脈つきペーストを世代を重ねるうちに蓄積して行く事によって。ある単語が話されるようになったきっかけから意味の変遷までを全て記録出来るのです。我々の話す言葉の一つ一つにどれほどの歴史の物語があるのか、後世の人々は感嘆を持って過去を語るでしょう。