言語ゲーム

とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

Twitter: @propella

祭り

暑いグレンデールも、ホテルで窓を開けると風が大変心地良い。ただ寝すぎのせいか頭が朦朧として何もする気になれない。こういう日は現実逃避に、なにかどうでも良いことを考えよう。心地よさの記憶というのは、何かを表現する時に必要な物なんだと思う。物を作り出す時には反復し、再構成する為の大元となる経験が大切になる。たとえそれがプログラムのような一見無味乾燥な物であっても、最後には人が感じる物である事には変わりない。

なんだか馬鹿げた考えだが、僕の作りたい物は夏祭りのような物なんだと思う。色は闇の中の提灯。昼間ののぼせた体温を醒ます緩やかな風。怪しげな屋台。謎めいた境内の向こう。母に手を引かれながらも、眠くて目を閉じると瞼に赤い光が蠢く。九歳の僕が始めてパソコンの画面を見て思ったのは、瞼の向こうの祭りの世界のようだという事だった。

キーボードを打つと、漆黒の中に浮かび上がる緑の異国文字。隣の売り場から流れる松田聖子と、テキサス・インスツルメンツのチップが奏でる矩形波の奇妙な混ざり合いの中で、毎日のようにパソコン売り場に通っていた僕は、パソコンのモニタを通じて秘密の祭祀に参加しているような気になっていた。

アトヅケで今考えると、神社が失われた時代の長い記憶を持っているように、たかが数万円のパソコンの向こうに何か遠い知識の歴史を感じたのかも知れない。今や浅いくて広いインターネットの表層によって、祭りは遠く見づらくなってしまったが、それでもきっと人知れず続いているはずなのだ。