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とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

Twitter: @propella

コンポコ駅

アメリカでは、よくそれぞれの民族が固まって街を形作っている。突然そういう街に出くわすと見慣れない異国の文字とことばで溢れ返り、まったく遠くの世界に迷い込んでしまったのではないかと驚かされる。そんな街の一つ、コンポコ街について話そうと思う。

ハクさんは同じアパートの住人で、たまにコインランドリーで出会うくらいの間柄だ。ある休日の朝、いつも通り乾燥機を待っているとハクさんがやってきて、出身についての当たり障りの無い話題になった。ハクさんは日本にとても興味があって、ハクさんの母国であるコンポコでも日本のアニメやなんかが随分人気らしかった。コンポコ???はて、そんな国あっただろうか。知らないと言うのも失礼な話だし、話を適当に合わせていると、甥がアニメ好きだから、是非の彼の住むコンポコ街で語ろうと言う。コンポコ街まであるのか!

というわけで車を走らせて一時間程度、ロングビーチよりもちょっと南に下った当たりの辺鄙な場所に車を止めて、列車を待った。ロサンゼルスで列車というのは珍しい組み合わせなのだが、コンポコ人は列車が大好きで、街に入るには必ず列車に乗らなければならないという。そしてやってきた列車は私の目には大変奇妙な物だった。

列車は巨大で高く長く、それは良いとして屋根が無かった。座席の様子がよく見える。ここはオープンカーの多い土地柄なので、そこは理に適っているのだろう。客車の形は一つ一つ全然違っていて、私が何気なく真ん中当たりの客車に乗ろうとすると、そこは下等客車だから止めておけと言われる。前と後ろが高級客車で、中に行くに従って下等になるらしい。下等客車は屋根が無い以外普通の車内なのだが、高級客車の方は極めて奇妙だった。

まず、高級といっても車両の前と後ろでは雰囲気が異なる。最後尾の客車はお金持ちが乗るように出来ていて、車体全体が一軒の家のようだった。中が丸見えなので、いわばドリフや吉本新喜劇の舞台のようで可笑しい。しかし中にはいかにもお金持ちそうな親子がゆったりソファーに座っていた。前の方の高級客車には殆ど人がいなかったが、座席の高さが尋常じゃ無かった。一番高い座席で三十メートルくらいあるだろうか、そういった座席には梯子で登るようになっていた。この高さでよく走れる物だ。

私とハクさんはほどほど級の客車にのり、コンポコ街の中心駅までやってきた。駅には裸同然の貧しそうな子供達沢山いて、列車が到着すると前後の高級客車の方に走って行った。後ろに走った子供達は急いで赤い絨毯を広げ、その上にテーブルやなんかを組み立て始める。あのお金持ちの親子は列車が停車している間そこでパーティをやるらしい。一方で先頭車両の方も面白い事になっていた。

丘の方から沢山の白い服を着た老人達がやってきて、先頭車両に乗り始めた。コンポコではカトリック系の教会が強く、街の人々も大変信心深い。老人達はどうもそういった教会の神父らしい。ハクさんによると、コンポコの教会には一点変わったしきたりがあって、神父は高い椅子に座らねばならない。しかも階級によって椅子の高さが厳密に決められていて、やってきた中で一人ヨボヨボした一番有り難そうな神父さんはどうも最高位の椅子に座らなければならないようだった。

先頭車両に走っていった汚らしいなりをした子供達は、そういった老人が高い椅子に登っていくのを助ける事になる。神父はもう足腰が弱く、大変な時間がかかった。私はふらりと遊びに来ただけなので、ぼんやりそれを眺めていたのだが、他の乗客達も何一つ文句言う事なしに、神父と汚い子供達がゆっくり登るのを待っていた。時折後ろの方の車両から、楽しそうに騒ぐお金持ちの声が聞こえる他は、大変静かだった。