言語ゲーム

とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

Twitter: @propella

ムク太郎の最期

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ヒヨチャンとムク太郎

ムク太郎が庭にやってきたのは寒さのゆるみかけた二月の中頃だった。気まぐれで庭に古いパンを置いてみたら、お腹をすかせた野鳥が何羽かやって来たのだ。図鑑で調べると嘴の黄色いのがムクドリで、頭がバサバサしてるのがヒヨドリだった。ムクドリは必ず一羽ペアで現れる。そのうちの一羽はどういうわけか少し高い所から相棒が忙しく餌を食べるのを見守っている。そして他のヒヨドリやハトがやってくると近づいて威嚇するのだ。その男前な振る舞いに妻が大変気に入り「ムク太郎」と名付けて大層かわいがっていた。

不思議な物で、毎日観察していると同じように見える鳥たちの見分けが付いてくる。僕のお気に入りのヒヨドリの「ヒヨチャン」は臆病で、ムクドリがいない時にこっそりやってくる。他のヒヨドリは二羽三羽仲間とやってくるのだが、ヒヨチャンだけはいつも一人ぼっち。いつもムク太郎に虐められて可愛そうなので、大きいムク太郎に邪魔されにくい細い枝の先にミカンを刺すと喜んで食べる。

ここへ引っ越してまだ二年目なのだが、ご近所を覗くと結構みんな鳥に餌をやっている。これは今まで知らなかった趣味だ。朝食を食べながら鳥たちを眺め、この二匹は初々しいとかこっちは三角関係だとか勝手にストーリーを膨らませると楽しい。

そんなある朝の事。僕が地下室で作業していると庭からギャーギャーと尋常ならざる声がした。ムク太郎は喧嘩っ早いのでいつものように他の鳥を追い払っているのだろうと気に留めなかったが、次女が嘴のような物が庭に落ちていると言う。まさかと思い庭に出ると鳥の羽根が一面に散乱し、中央に黄色い嘴が落ちていた。

羽根と嘴以外は何も無い。猫の仕業かカラスなのか、綺麗サッパリ食べ尽くした痕だった。羽根と嘴を埋めながら、ふとこれがムク太郎ではありませんようにと願ってしまう。それ以来ムクドリヒヨドリも来なくなった。

犠牲になったのが誰なのか知るすべは無い。しかし季節は移り、わざわざ目立つ庭に来なくても餌にありつけるようになったので、きっとムク太郎夫婦はよそで元気に暮らしているのだろう。代わりに最近小さなシジュウカラが訪れるようになった。

シジュウカラは餌に見向きもせず、庭木をつついて芋虫を捕るのに忙しい。