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とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

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The Dispossessed / 邦訳『所有せざる人々』 Ursula K. Le Guin

The Dispossessed (S.F. MASTERWORKS) (English Edition)

お互いを月とする二つの惑星 Anaress と Urras では対称的な二つの社会が発展していた。

過酷な環境の Anaress では、限られた資源の中で生き残るために何かを所有する事が禁じられていた。Anaress には貧富の差が無く人は財産を築かず平等に暮らしていた。職業は Divlab が公正に割当て、辛くて危険な仕事も全員で公平に負担していた。子供は早くから親を離れて寄宿舎で生活していた。

Anaress の人々は、貧困と享楽が同居する身分社会の Urras を軽蔑していた。たった一つの港で限られた貿易を行う以外は二つの惑星の往来は禁じられていた。そんな中で、Anaress の若き物理学者の Shevek は、170 年の鎖国を破り Urras に渡る事を決意するのであった。という話。

1974 年に出版された時代性の濃い作品です。遠く離れた異星人の世界を借りて、冷戦時代のイデオロギー史を勉強している気分になれました。所有が禁じられた社会で行う結婚や子育ての描写、嫉妬による足の引っ張りあいや、自由を求める者への迫害などが面白かったです。理想を求める若者たちの会話が熱く、なんかほっこりしました。

正面から書くのが憚られる時代のテーマを SF の世界を借りるのはよくあるパターンですが、最近はどうなんでしょうかね?

ちなみに、舞台となる Tau Ceti 星系というのは、SF 世界でよく使われる舞台装置だそうです。Wikipedia にも説明があります。https://en.wikipedia.org/wiki/Tau_Ceti_in_fiction

後半出てくる Hain 星人というのも作者グウィンの他の小説にも共通して出てくる設定だそうです。https://en.wikipedia.org/wiki/Hainish_Cycle

Wikipedia めっちゃ有り難いです。