言語ゲーム

とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

Twitter: @propella

生後 1076 日 電動車いす

妻は幼少の頃に山梨県八ヶ岳地方で育ったのだが今でも縁があり年に一度は訪れている。今年も遅めの夏休みとして知人の家に二泊お世話になった。そこで印象に残った光景がある。

畑の中に佇むある集落に細い生活道路が複雑に折れ曲がっている。道路の両脇が用水路で車がすれ違えないほど狭く、車を運転する僕は恐る恐るハンドルを握っている。ふと目に入ったのは陽気に会話をする二人のお婆さん。二人とも誇らしげに電動車椅子に乗っている。

道路が塞がれて車を前に進めないのだが、電動車椅子の上で井戸端会議という状況が魅力的で、僕は少し離れた場所からじーっとしばらく二人を見つめてしまった。そのうち会話が途切れたのか二人は別の方向に分かれ、こちらにやってきた一人と目が合い、なぜかお互い笑ってしまった。

僕がその時ふと思い出したのは、高校生の時に読んだ大友克洋の『AKIRA』だった。AKIRA では想像上の未来の生活が描かれているが、僕が 2017 年に実際に見たものは結構違っていた。普通の老人が普通の電動車いすに乗って普通に会話する光景、全く普通の光景だけど、もし高校生の僕がこれを見たら絶対思ってたんと違うと言っただろう。

高校生の僕にとっての電動車椅子は、機械化が進んだ陰気な都会のシワシワの超能力少年少女の萎えた身体の表現に見えたが、実際の電動車椅子は若者のいない農村で逞しく農業を続ける老人達の自慢の移動ツールになっていた。とにかく、現実の方が想像よりかなり面白く魅力的だった。

僕はそんな気持ちをお婆さんに見透かされた気がして照れ笑いをしたのだが、お婆さんがそもそも何故こっちを見て笑いかけたのかは謎だ。