言語ゲーム

とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

Twitter: @propella

背徳的なものまね鳥

舞台

ある背徳的な森に、交尾好きの鳥たちが棲んでおりました。鳥たちは昼も夜も男も女も無く交尾に励んでおりました。あまりにも酷いので神は掟を定められました。

  • 左に女、右に男が並ぶべし。
  • どんな種類の鳥同志であっても選り好み無く隣人と必ず交尾すべし。
  • 交尾の後に子を産み、親は死ぬべし。
  • 種類と男女の組み合わせにより、決まった種と数の子を生むべし。

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神は掟を守らせるために、どの組み合わせでどの鳥が生まれるのかを覚えていられるように手帳に書いておく方法を決められました。つまり、それはこんなイコールで結ばれた式です。

  • 交尾のルール: 女 男 = 子

例えば、ニワトリ ペリカン = 鴨、と書くと、ニワトリの女とペリカンの男が交尾すると鴨が生まれるという具合です。ただ、男女の組み合わせを逆にして、ペリカンの女とニワトリの男にすると、鴨とはまた違った子が生まれるかも知れないので注意してください。

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神によって好きでもない男とも交尾させられた女の鳥たちは、そんな苦しい境遇の中でも何とか愛を伝えるためにある工夫をしました。女の鳥は好きな男との交尾の後は必ず男と同じ種類の鳥を生む事にしたのです。

  • 鳥 A が 鳥 B を好きな時: A B = B

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ここで突然ものまね鳥が登場します。

  • ものまね鳥とは: ものまね鳥 x = x x

x は、どんな鳥にも当てはまるという意味です。ものまね鳥の女は男と交尾すると、男の種類の子を二羽生んで死にます。例えば、「ものまね鳥 スズメ = スズメ スズメ」の場合、ものまね鳥の女はスズメの男と交尾をすると、男女二匹のスズメを生みます。二羽のスズメは生まれるとすぐにまた交尾を始めますが、それはまた後でお話します。

話はそれますが、ある女の鳥は、二羽の女と同じ事をする事があって、それを結合鳥と呼びます。鳥 B が x の子を産み、その息子が鳥 A と交尾して出来た子が、鳥 C と x の子と同じ種類だとすると、鳥 C は、A と B の結合鳥なのです。

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  • 鳥 C が 鳥 A と 鳥 B の結合である時: C x = A (B x)

実は、どんな鳥同志にも結合鳥が居るそうです。例えばガチョウがスズメとニワトリの結合鳥で、そこへペリカンの男が現れるシチュエーションを想像します。

こんな風に一羽の鳥が二代分頑張るわけです。ここでやっと問題です。

問題

  • 問題: この森の鳥は必ず好きな鳥がいるそうですが、これは本当でしょうか?

答え

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まず、「どんな鳥同志にも結合鳥が居る」事を思い出します。

  • C x = A (B x)

それから、ものまね鳥の事を思い出します。

  • ものまね鳥 x = x x

ある鳥と、ものまね鳥の結合鳥を「あるまね鳥」(略してア鳥)と呼びます。

  • ア鳥 x = ある鳥 (ものまね鳥 x)

次に、ものまね鳥と ア鳥 が交尾したらどうなるか待ってたら、ア鳥とア鳥が生まれました。

  • ものまね鳥 ア鳥 = ア鳥 ア鳥

さっきの式の中に書いてみます。

  • ア鳥 ア鳥 = ある鳥 (ものまね鳥 ア鳥) という事は?
  • ア鳥 ア鳥 = ある鳥 (ア鳥 ア鳥)

ある鳥は「ア鳥とア鳥の子供」と交尾すると、必ず「ア鳥とア鳥の子供」を生む事が分かります。

ということで、答えは「本当です」、どんな鳥も、「「その鳥とものまね鳥」の結合鳥」同志が交尾した子の事が好きである事が分かります。

ものまね鳥とは

「どんな鳥でも」という言い方は難しくて、なんだか狐に包まれたような話ですね。これは、レイモンド・スマリヤン著『ものまね鳥をまねる』p73 に出てきたクイズを書き換えたものです。原書だと、どうも比喩が破綻しているような気がしたので、自分の分かりやすいように書き換えました。この話も破綻していますが、筋は通っているつもりです。特に、女が左で男が右、という所がミソです。これは結合子理論のツリー構造が必ず二つの枝で出来ている事と対応しています。

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ものまね鳥の話は計算の基本理論である結合子(コンビネータ)について説明するための物です。そこで先走って書くと、どうも結合子の世界は一種類の記号とカッコだけで表現できると分かっているようです。という事は、全ての鳥が、ある種の鳥の男女の組み合わせでだけ出来ているという事です。わたし達の知性がただの計算だとすると、それもまた、男女の系統図ですべて表現できる事を意味します。ここに神話的構造が垣間見えるというのは言いすぎでしょうか?かつて伊邪那岐伊邪那美から神々が生まれたように、一対の結合子から全ての関数が生まれたのです。そこまで理解できるようになるといいなあと思います。

追記

  • 挿絵(小枝図)と SKK=I の図解をおまけで追加
  • 交尾の式を 女 男 = 子 としたのは失敗だった。女 男 -> 子 のように方向性を明示した方がよかった。