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とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

Twitter: @propella

管路収集

テレビを見てると、大変魅力的な映像が流れてきた。放置されて久しい薄暗い工場の中で蠢く無数のパイプ。パイプの片側は真空発生装置に、もう片側は長く工場の外へ伸びてゆき、地域の各家庭に繋がって行くという。

管路収集というのはごみ収集の方法で、収集車によってごみを回収する代わりに、各家庭に設置されたダストシュートから収集するという物。家庭では 24 時間いつでも好きな時にごみを出す事が出来て、出されたごみはパイプを伝わって直接処理工場に到達する。

なんて未来的で魅力的なシステムなのだ!

しかし残念ながら、コスト高と分別収集という時代の波に押されてどんどん廃止されているらしい、このシステムを提案したテクノクラートの失意を想像すると痛ましい。しかし想像してみたまえ。

未来の多摩ニュータウン。かつての栄華も空しく超高齢化社会により若者が消えた街。平均年齢は上がる一方だがそれでも寿命には限度がある。ある冬、街を襲った新型インフルエンザの嵐、毎朝病に倒れた大量の孤独死が発見されるが、もはや葬る子供達も無く、増え続ける死体の山。悪臭に悩まされる住民達。長い議論の末、数十年ぶりに真空発生装置の稼動が決定されるのだ。

ニュータウンの夜。今日も一人、また一人とパイプに乗って老人達が運ばれる。死期を悟った者は、自らダストシュートに身を投じるのがこの街の美徳である。彼らは痛みも無く、工場で清潔に処理され、人知れず消えて行く。街は静寂のまま日々の営みを繰り返す、街で最後の老人がパイプに消えるまでは。