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とあるエンジニアが嘘ばかり書く日記

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C4 用カンペ: OLPC(100ドルラップトップ)の動向とスクイークの開発状況

C4 http://squeakland.jp/sqmedia/20070210C4.html で話した内容の原稿を修正した物です。ウェブで入手できる情報をコピペして作ったので、間違いがあるかも知れません。流用される場合は一時情報(http://www.itconversations.com/shows/detail777.html http://www.laptop.org/vision/index.shtml あたり) や大島さんによる最近の講演レポート http://d.hatena.ne.jp/squeaker/20070209#p1 を参考にして下さい。

前口上

こんにちは、Viewpoints の山宮です。本日は百ドルラップトップの試作品を持ってきましたので、デモをしながら百ドルラップトップとスクイークについてお話します。

私が始めて100ドルラップトップについて噂を聞いたのは大体二年くらい前の事です。スクイークを開発したアラン・ケイ博士からメールをもらいまして、MIT が100ドルのパソコンを作って、発展途上国の教育に使うらしい噂がある事と、スクイークチームとしても是非参加したい事でした。

その際に私が抱いた感想は、おそらく皆さんが持つ疑問と同じ物だと思います。一体 100 ドルという価格設定はどこから来たのか、中古のパソコンを使わないで新しくラップトップを配る意味は何なのか、そもそも、電気も届かないような発展途上国でのコンピュータ教育に意味があるのか? 後ほどこれらの疑問にお答えします。

100ドルラップトップの話が我々にとって現実的になって来たのは、それから一年後、去年の夏の事です。それまでは噂ばかりで姿の見えなかったこの計画ですが、完成予想の模型が大々的に発表され、我々の元に評価ボードが届きました。ただ評価ボードは届いた物の、一体これがどのように使われ、何を期待されているのかどうもよく分からない。そこで去年の秋の始めに、アランさんとスクイークチームの面々は、ボストンにある100ドルラップトップの本部を訪問しました。そこでスクイークチームはある物を見ました。

液晶

我々がボストンに到着して二日目の事です。マリー・ルーという女性科学者が、完成したばかりの新しい発明品を持って、ボストンに訪れました。彼女の持つ美しい液晶ディスプレイが、実はこの計画の大きな要になっていました。この液晶を見ることによって、我々は計画の持つ意義と課題について何となく感じをつかむ事が出来ました。ではこれから、この計画の今までの道のりについて、少しご紹介したいと思います。

OLPC

我々は、この計画の事を100ドルラップトップではなく、OLPC、One Laptop Per Child と呼びます。一人の子供が一つのラップトップを持つという事により、世界を変えようというのがこの計画の趣旨です。また、OLPC の目的が、コンピュータの開発にあるのでは無く、教育にある事についても注意しおきたいと思います。

ネグロポンテ

OLPC を率いているのは、ニコラス・ネグロポンテという人物です。彼は MIT メディアラボの創立者であり、コンピュータを使ったデザインの先駆者です。また、日本でも発売された、「ビーイングデジタル」という本の著者として知られています。また、事業家としても、モトローラ社の取締役を務めるほか、ワイアードマガジンを含む多くのベンチャー企業に出資しています。彼はある時世界の問題を解決するため教育に注目しました。

世界には様々な問題があります。貧困、戦争、環境、差別。これらの問題の多くに教育が深く関わっています。問題の原因はしばしば教育の不在であり、教育によって大きく改善される事があります。なにより、教育とは、管理可能な手法です。

世界の 20 億近くの子供のうち、三分の一が五年生を終える事が出来ません。また、子供達の両親の意識も低く、教育によって生活を変えるという意識がありません。そういった国々がグローバル社会に巻き込まれると都市には膨大な貧困層が現れ、経済発展の足を引っ張ります。彼はこういった地域にどのような教育が必要かを考えました。

OLPC前史

彼がまず最初に発展途上国における教育問題とコンピュータについて活動を始めたのは 1982 年でした。当時シーモア・パパードとネグロポンテは、スティーブ・ジョブズからプレゼントされた数百台の Apple II コンピュータをセネガルのとある村に寄付するという計画に参加しました。子供達は人里はなれた寒村であってもコンピュータを使いこなしましたが、結果的にこれは根付きませんでした。継続的なサポートが無かったからです。

1988 年には、コスタリカにおいてパパートと MIT のグループは教師の養成と、構成主義に基づいたカリキュラムを含んだ組織的なコンピュータの導入を行いました。コスタリカは人口 400万人程度の非常に小さな国であり、地域に根付いた支援が上手く働き、この計画は継続していく事が出来ました。そして、現在コスタリカの輸出産業はコーヒーやバナナと言った農業製品から電子機器へと大きくシフトしています。

2002 年にネグロポンテは、カンボジアの小さな村の学校を、衛星回線によってインターネット接続に接続するという計画を行いました。この村には電気も水道も無かったので、学校に置かれた唯一の発電機を活用するためにパナソニックのラップトップを提供しました。子供達はラップトップを家に持ち帰ると、両親は大変喜びました。なぜなら、その液晶モニタが、家庭内で最も明るい光源になったからです。また、子供達は初めて英語に触れました。初めて覚えた英単語は「google」であり、すぐにブラジルのサッカー選手の名前を覚えました。この経験を元に、現在の OLPC の基本コンセプトが固まってきました。

2005 年のスイスでの世界経済会議で OLPC のコンセプトを発表した後、その年の年末、チュニジアにて実物大の模型が公開されました。派手な緑色で発電に使われるという大きな取っ手のついたこの模型は大きな話題を呼び、日本のマスコミにも紹介されました。その後台湾のクワンタコンピュータが OLPC の生産に名乗りを上げ、ついにこの計画が現実化して来たのです。では、その OLPC とは、一体どのような計画なのでしょうか?

OLPC とは?

OLPC とは、子供一人ひとりが「学ぶことを学ぶこと」を目指したラップトップコンピュータです。一人ひとりが所有する事、インターネット接続を基本とする事、そして一般の販売ルートではなく、その地域の政府が配布する事、という特徴があります。

インターネットから直接知識を得る環境を作る事により、子供達は自ら知識を吸収する事が出来ます。ここでは教師は、子供に決まった物を与えるのでは無く、子供が知るのを手助けするという役割に変化します。教科書に代わる物として、OLPC では自由にダウンロードできるテキストを提供します。紙の教科書とは異なり、これらの情報は常に最新に保たれます。また、メッシュネットワークによって子供達のラップトップは直接繋がりあい、教えあうという事が可能になるでしょう。また、より低コストで実現するために、また継続的なサポートを保証するために政府などの大きな組織の援助が欠かせないと考えます。

では、果たしてこのような計画が本当に実現可能なのでしょうか?

OLPC の経済性

100ドルという価格設定が妥当な物かについて二つの視点でお話します。購入者側から見て しかも発展途上国における 100 ドルというのは一見高いように思われます。しかしこの機械が小学校を卒業するまで全ての教科書の代わりとなる事を考えてみて下さい。もしも一冊の教科書がたった2ドルだとしても、毎年10冊買い揃え、5年生まで買い足すと100ドルになります。これは決して高すぎる買い物ではありません。

また製造コストの視点で考えます。例えば10万円で販売されるコンピュータがあった場合、実はそのコストの半数は営業と宣伝に使われます。OLPC非営利団体であり、政府を通じて提供されるため、このコストを削減する事が出来ます。のこりの5万円が製造に必要な額です。しかもそのうち半分は Windows などソフトウェアの値段です。もしもオープンソースの OS を選択すれば、削減出来る部分です。ハードウェアの価格のうち、さらに残りの半分は液晶の価格です。もしも低価格の液晶が開発出来れば、この計画は現実的になります。そして高性能の CPU とメモリが必要なのは無駄に太ったソフトウェアを動かすためであり、もしも我々が小さな環境でも動く機敏なソフトウェアを作れば、ハードルはさらに下がります。

OLPC 参加国

ここに挙げた地図が、OLPC に参加を予定している地域を表しています。今年の冬には最初のバージョンがパイロット国、アルゼンチン、ブラジル、リビア、ナイジェリア、ルワンダウルグアイに配布される予定です。さてそれではこれから、実際に OLPC の試作品を使ってデモいたします。

デモ

イートイの今後

去年の夏に、Viewpoints Research Institute では重要なある一つの決定をしました。私達のソフトウェアをスクイークでは無く、イートイと呼ぼうという事です。今までも、イートイと言うのは子供達が使うタイルスクリプト環境、スクイークはイートイを作るためのシステムという風に使い分けをしていました。ここでイートイを強調するのは二つの意味があります。一つはアランさんの言う「チルドレン・ファースト」子供から見る視点を重視するという事と、二つ目はイートイを実現するための技術的な仕組みは問わないという事です。

皆さんの中には、自身でイートイの新しいタイルを作って機能を増やしたいと挑戦した方もいるかと思います。機能を増やすのは簡単ですが、それを他の人と共有するのは結構難しいです。それは、スクイークの背後にある設計が 30 年前の方式を未だ引きずっているからです。これらの古い設計を見直そうというのがこの二つ目の動機です。

具体的な近い目標としては、イートイを OLPC に移植する作業を行っています。ポイントとしては、OLPC のハードウェアスペックに合わせたカスタマイズを行う事があります。OLPC は普通のパソコンと比較して画面サイズや CPU の速度、メモリで独特な点が多く、適切なカスタマイズが必要です。また、教師のいない村で始めてイートイに触れる子供達の為の教材の作成も大きな目標です。

そしてこれから数年にかけて、さらに大きな計画があります。米国科学財団等の援助により、今までと全く違ったコンセプトのパソコンを作ろうという物です。簡単に言うと、イートイでコンピュータに必要なソフトの全部を書いてしまおうという物です。

アランさんの好きな車の例えでご説明します。アランさんの十代の頃、T 型フォードという自動車が流行っていたそうです。T 型フォードは構造が簡単なので、子供でも分解して組み立てる事が出来たそうです。壊れても自分で直してしまう事も出来ます。T 型フォードによってアランさんは好奇心が掻き立てられ、科学技術への興味が沸きました。現在の自動車を見ると、部品の多くはブラックボックスになっていて、とても中を覗く事が出来ませんね。

アランさんが考えたのは、T型フォードみたいに分解できるコンピュータが欲しいという事です。もしもイートイでアニメを作るだけじゃなくて、コンピュータの深い仕組み、例えばネットワークの動き、フォントが表示される仕組み、スピーカのコーンが音を出す仕組みを操作出来たらどうでしょうか? コンピュータの中身は何か難しい、手の届かない物に思いがちです、しかしそれはただの道具なのです。イートイでその全てにアクセスする事によって、私達はコンピュータに使われるのではなく、本当の意味で活用出来るようになります。それが Viewpoints の目標です。5年以内にやります。

OLPC の今後

昨日和田小学校で、先生による大変素晴らしい研究発表がありました。実はスクイークを使った授業は、日本が最も進んでいると思います。毎年私達はシカゴで世界中のイートイを使った先生達との交流を行っていますが、和田小学校やスーパーサイエンスキッズの成果は世界的に見ても素晴らしいものだと思います。ここで皆さんに考えて頂きたいのが、こうした事例を、今後 OLPC が配布される地域で生かす事は出来ないかという事です。

先ほど、OLPC はラップトップのプロジェクトではなく、教育プロジェクトである。というネグロポンテの言葉を紹介しましたが、実際にはこの計画は技術者主導で進められており、本当に現場で必要になるであろう教材の開発は今後の課題です。計画の初期の段階においては、単に教科書の代わり、E-Book として使われる事を想定していますが、E-Book はラップトップを子供達に広めるための方便、「トロイの木馬」と見なされています。「学び方を学ぶ」という構成主義の本来の目的の為には、日本で試みられているような、コンピュータならではの試みが必要なのです。

また、日本のスクイークコミュニティは、英語の壁がある為になかなか世界と交流しづらいという事情があると思います。しかし、OLPC の配布される地域の子供達も同じように英語が話せません。私達の感じる言葉の壁は、多くの国々で同じように課題になります。スクイークの多言語バージョンが日本から登場したように、言葉のハンデを解決するための知識が、OLPC の大きな力になります。OLPC の活動は全て公開されたメーリングリストと、誰でも書き込める Wiki で行われています。興味を持たれましたら、是非ホームページをご覧になってください。

質問コーナー

ネパールでも是非導入したいのですが、NGO でも出来る方法はあるか?

すみません。分かりません(ごめんなさい)。

フィールドサーバーとメッシュネットワークで接続する方法。

すみません。わかりません(ごめんなさい)。

OLPC 用に新しくソフトウェアを開発する方法は?。

OS は Fedora Core ベースです。ホームページにあるイメージをエミュレータで動かして開発するのが確実です。 http://wiki.laptop.org/go/OS_images

国際化は?

フォント、キーボードとも各国に応じてカスタマイズされます。

(http://www.jearn.jp/ の方)OLPC 導入を政府に働きかけるような事がやりたいのですが、どういうルートがありますか?

すみません。わかりません(ごめんなさい)。

全然質問に答えられなくて申し訳ありませんでした。。。

あと参考までに。

想定質問

ラップトップなんか配るよりも食べ物や服を配る方が先じゃないか?

ラップトップは道具であり、それ以上の物では無い。しかし無線インターネットは貧しい人々が政治や社会に関わる事の出来る最も低コストの方法であり、また教育は、職を得る為に必要な物である。そして人々は自らの手で情報と、水と食料と家を手に入れる事が出来る。

新しいラップトップじゃなくても、古いパソコンで充分じゃないか?

ポイントは現在のネット社会と子供一人ひとりを直接繋げる事にある。いくら中古のマシンの方が実際は性能が良くても、一人ひとりを実現出来ない。また、中古のコンピュータを使う方法は手間がかかって大規模に行う事が出来ない。サポートの費用を考えると現実的では無い。勿論 100ドルよりも大幅に安くて同じ事が出来る解決方法があれば、我々はそれを採用する。

構成主義「学ぶ事を学ぶ」って何?

すみません。実はよく私もよく分かりません。個人的には、「学び方を学んだ」かどうかを評価する基準が無いのでどこでも使える教育法としては良くないと思います。。。と言おうと思ったけどこの手の質問も出なかった。

スペック

http://wiki.laptop.org/go/Hardware_specification#Specifications

  • 大きさ 242mm × 228mm × 30mm
  • 重さ 1.5K 以下
  • CPU: AMD Geode 366 Mhz GX-500@1.0W(datasheet)
  • DRAM memory: 128 MiB dynamic RAM
  • Mass storage: 512 MiB SLC NAND flash
  • Video camera: 640x480 resolution, 30FPS
  • Liquid-crystal display: 7.5” Dual-mode TFT display
  • Resolution: 1200 (H) × 900 (V) resolution (200 dpi)